奥能登

日本海に突き出た石川県の能登半島。その中でも奥能登は、地理的に「最果ての地」ともいえる地域だ。しかし、豊かな里山里海の自然に恵まれ、古来からの伝統的な農法や漁法が承継されている。また輪島塗や珠洲焼などの伝統工芸、キリコ祭りに代表される能登独特の文化も残されている。土地の人柄は、「能登はやさしや土までも」と言われるほど温かい。

 都会で生きる人々にとって、これほど魅力的な里山は全国でも数少ない。

天領庄屋中谷家

鳳珠郡能登町黒川にある「天領庄屋中谷家」。能登空港から車で15分のアクセスだ。

江戸時代、庄屋は地位の農地や農民を管理・統括し、村長ともいえる立場だった。幕府直轄の天領であった現能登町黒川を代々治めていたのが中谷家であった。

敷地約4000坪、主な建物は母屋、土蔵、離れ、奉公人部屋、湯殿兼便所、馬屋の6棟で、作庭から入った母屋は、入口の間、仏間、座敷、奥座敷、納戸、台所、茶の間など広大なもの。建物内は回り廊下で一巡でき、奥座敷の濡れ縁からは庭園を眺めることができる。特に輪島塗の蔵は圧巻だ。

石川県の指定文化財となっている。


黒川の風景

周囲を山に囲まれた黒川地区。季節毎に田園風景が美しい。


中谷家を核としたコミュニティづくり

築400年の建物を維持していくことは簡単なことではない。前当主中谷和夫氏の頃は有料で一般開放していたが、維持管理の困難さもあり近年は閉鎖されていた。

「江戸時代の庄屋と同じように地域の核としてコミュニティーづくりの場にできないか?住民(土の人)だけでなく都会人(風の人)との新しい交流の場にできないか?」

そんな問いかけのもと、現当主の直之氏と東京の地域プロデュースに関わる有志が参画し、「中谷家里山ヨバレプロジェクト」が始まった。

<里山体験>

田んぼでの田植えや稲刈り。山では山菜採り、タケノコ掘り、キノコ採り。そして保存食やカキモチづくりなどなど。春から冬へ、中谷家および黒川をフィールドとして里山の一年の季節の移ろいや人々の生活の工夫を、農家さんと一緒に楽しいながら体験できます。

季節毎の里山体験や「ヨバレ」による都会人と地域の人々の交流をきっかけとして、地元農産物の「土間市」、能登にちなむ現代作家による「ものづくり展」、手打ち蕎麦屋の開業など、新たな展開が始まっている。


<ヨバレ>

能登では年に一度のお祭りに、お世話になっている親戚や知人を家に招いてもてなす「呼ばれ」という風習があります。里山体験のあとは中谷家を舞台とした心が触れ合う懇親の場です。地元の人が都会から訪れた人をもてなす、新しい「ヨバレ」として楽しいひと時を過ごします。

能登の里山里海がもたらす豊富で新鮮な食材と能登の地酒を味わいます。人々の温かさを感じ、そして初めて出会う者同士が心を通わせる楽しいひと時です。